Day.2
朝4時くらいにぱっと目が覚める。
時差ぼけのようだ。頭の中に小さな鉛が入っているような感じがする。
この日は移動日。
早朝にホテルを出て空港へ向かう。
団体で移動するのは学生の時以来だろうか。
なんだか懐かしい感じ。団体行動は苦手だったけれど。
Vitóriaという街の空港に着き、すぐにそこからバスで移動。
3時間後、エスピリートサントの農園に到着。
だいぶ山奥まで来たようだ。
サンパウロに比べて空気が澄んでいる。気温も少し上がったように感じる。
舗装されていない山道をしばらく歩くと、小さな小屋のようなカフェがあり、そこで昼食をご馳走になった。
どこに行っても盛大に歓迎してもらっているなぁ。
結局、最後まで彼らが誰なのか把握できず終いだったが。
昼食を終えると、近くにあるCamocim農園を見学した。
ここの農園主はバイオダイナミックの実践者。
バイオダイナミックとは、種まきや苗の植え付け、堆肥作りや収穫などの時期・タイミングを月や星々の運行に合わせて行う有機栽培の一種である。
少しスピリチュアルな側面もないこともないが、野菜やワインなどの分野でも実践者は多く、成果を上げている農法ではある。
この地域の収穫時期は4月からだったので、コーヒーの実は未熟で緑色のままであった。
一回りして、またバスで3時間ほど移動し、辺りがまっ暗になった頃にカパラオという町のホテルに到着。
今日から4日間、ここに滞在し今回のブラジル訪問のメインであるオークションロットのカッピングを行う。
夕食の間、ずっと雨が降り続いていた。
テーブルで一緒になったブラジル・サンパウロ出身の女性に聞くと、
「今は雨季ではあるけれど、だいたいはスコールで、こんなに長く雨が降りつづくのはかなり珍しいね」とのこと。
ちなみにこの女性は「sprudge」のライターだった。
「sprudge」はコーヒーのweb情報誌で、世界数十カ国に点在するライターがそれぞれのフィールドで記事を書いていくもの。
何となく「STANDART」に似ていると思い、彼女に聞いてみたところ、Toshiのことは名前は知っているということだった。
まぁどうでもいいか(笑)。
翌朝、いよいよカッピング。
自分達が買い付けるサンプルのカッピングなので、会場内はいつもとは違う緊張感に包まれていた。
テーブルの上にたくさんのカップが並ぶ。
2セッション行い、各セッション後に全員でカリブレーションする。
オークションロットのカップは、全体的にいわゆる「ブラジルコーヒー」とは思えないような、パイナップルやピーチなどを思わせる複雑なフレーバーを感じた。
いくつかのカップにおいては、クリーンカップ、マウスフィール、アフターどれも素晴らしく、僕の中でかなりのハイスコアとなった。
その後のカリブレーションでも、参加者が多いので、(だんだん増えていってる気がする。この時は30人くらいいた)多様な意見が聞けてとてもいい勉強になった。
カッピングが終わると、近くの別会場でBSCAに関わる人達によるプレゼンテーションが催された。
ポルトガル語なので通訳が入るまで言葉は分からないが、すべての人から熱い想いが伝わってきた。
当然ながら、コーヒー産業は、彼らにとっては生きていく手段なのだ。
消費国にいると、ついそんなことも忘れがちになるけれど。
昼食の後、カパラオのNinho da Aguia農園へ。
まずは生産者から、この農園について説明がなされた。
この農園は親子2代で経営をしているようで、息子さんは元々サーファーだったが、「コーヒー農園をやれば、収穫時期の半年だけ働いて半年は遊べるよ」と言う、お父さんの口車に乗せられて、それまで未経験だったコーヒー農園の手伝いを始めることになる。
「それから15年経ったが、いまだに休暇がとれていない」と、笑いながら話していた。
でもその顔から不満の色は微塵もないように僕には見えた。
ここの農園の標高は1200mから1300mほど。
コーヒーの木の周りの土が湿っていて、ふかふかしている。
聞くと、「化学肥料は一切使っておらず、マイクロオーガニズムによって土の中の微生物が高度に多様化されているため」であるという。
「土の状態がコーヒーの味に直結する」という認識は今やどこの生産国でも共通のようである。
向日葵がコーヒーと一緒にたくさん植えられているのも同じ理由からだった。
それに、と元サーファーは言う。
「向日葵は可愛いしね。ここは僕のお庭だからさ。」
コーヒーの木で埋め尽くされた山から、下りきったところにカフェがあり、そこでコーヒー&スイーツタイム。
僕たちコーヒーツアーの団体に、BSCAのスタッフ、カフェのご家族の方々、犬、猫やらが加わって、わいわいがやがや、店内は大賑わい。どこを見ても、チーズケーキを乗せたお皿を片手におのおの話に花が咲く。
ここでは毎日がこうして、流れていくのだろう。
「豊かさとはなんだろう」と、考えさせらる。
それにしても、ブラジルの人たちはいつも溢れんばかりの食べ物でもてなしてくれる。
「食べて話して、食べて話して、そしてまた食べる!これがブラジルなのよ」と、コーディネーターのおばちゃんはポンデケージョを頬張りながら僕に教えてくれた。
そうなんですね。
次の日も午前中はカッピング。
1テーブル目は10カップ、2テーブル目は9カップの計19カップをカッピング。
これで全てのオークションロットのカッピングを終えた。
昨日に続き、いくつか「これは」というものもあり、ワクワクしながらカッピングした。
ある程度、自分の中の順位も固まってきた。
あとはオークションで希望通り落札できるか、というところ。
午後から2時間車に揺られ、ミナスジェライス州とエスピリートサント州の境界にあるカフェを訪問。
昨日訪問した 農園に比べ、湿度が高い。
このカフェに周辺の農園主たちが集まり、僕たちにこのエリアのコーヒー農園の現状についてお話をして頂いた。
かなりの大人数だが、じつはほとんどが親戚同士で、子供達もコーヒー農園の手伝いをしているらしい。
子ども達の世代は海外のバイヤーとコミュニケーションがとれるように、英語を学ぶのが当たり前になっているようだ。
お話が終わると、近くの農園を見て回った。
このエリアの農園では2005年くらいまでコモディティコーヒーが主流であったが、スペシャルティコーヒーを作り始め、国内の品評会などで賞を取ったことで、販売価格もそれまでの3倍ほどになったという。
それは素晴らしいことだ。
一方で、こんな考えも浮かんでくる。
ひと昔前までは、消費国のバイヤーはより安いものを求め、それが生産者を圧迫した。
スペシャルティコーヒーが台頭して以降、品質の良いコーヒーを作ることができれば、低い価格で買い取られるという心配はなくなった。
しかし、スペシャルティコーヒーが成熟期に入ると、今度は買い手側の「品質の良いコーヒー」に対するとどまることのない要求が、彼ら生産者を圧迫し始めているかもしれない。
コーヒーが農作物である以上、彼らがどんなに努力しても、天候に恵まれなければ今のスペシャルティコーヒーが求めるクオリティのコーヒーは作れない。
そうであれば、とたんにその農園からコーヒーを1袋も買わなくなるバイヤーというのは少なからず出てくるだろう。
当然、生産者はそういった外的な要素によって大きく収入が増減する。
良いコーヒーを作る為にどこからか借り入れして設備投資をしている人も多くいる。
コーヒーの世界だけに言えることではないが、どんなシステムであっても、勝者と敗者が生まれてしまうジレンマがそこにある。
いずれにしろ、顔の見えない取引には「優しさ」が足りない、と思う。
夜になるとコーヒー農園とキャンプ施設が一緒になったようなところでバーベキュー。
ブラジルに来て、毎食のように肉を喰らってる気がする。ブラジルの人達の肉づきの良さはこういう食文化の影響もありそうだ。
テーブルで一緒になったフランス人やポーランド人、オーストラリア人のロースター、コロンビア人のライターとお互いのお店や国の事、食べものの話で盛り上がった。
今回は、生産者だけでなく世界各国のロースターとの交流も楽しかった。
国が違えば、マーケットの大きさやら味の好みやら生産者との関わり方など、色々変わってくる。
それでも、コーヒー屋同士というのはどこか似たところがあって、その似た部分を感じる事ができた時、妙に嬉しい気持ちになる。
明日はオークションがついに開催される。
疲れが溜まっていたのか、時差ぼけも関係なくベッドに入ったらすぐに眠りに落ちていた・・・。(そして朝4時に目が覚める(笑))
続く